お嫁さんの次に大好きな女性がいる。
大好きな上に、心から尊敬できて、そして世界一憧れている女性だ。
T山さんとはパリコレの撮影で訪れたパリで出会った。貧乏金無しの僕に、格安で自宅の一室を提供してくれた。
極寒のパリでいくつものランウェイを撮影し、
へとへとになって帰宅する僕をソファーで船をこぎながら待ち、
玄関が開くとすぐに飛び起きて手作りのシチューを温め、もてなしてくれた。
いつも時計は12時をまわっているのに、
テーブルにはいつもチーズとワインもかかさなかった。
朝は僕より早く起き、
コーヒーを淹れ、オレンジジュースを搾り、フランスパンを焼き、
起きるのは今か今かと待っていてくれた。
お昼間の買い物では何が食べたいか、
本当のおばあちゃんのように尋ねてくれた。
2012年冬 パリにて
空いている時間には近所を散歩して色々な事を教えてもらった。
「良い事ばかりじゃないですよ。悪い事ばっかり」
「でもやるときめたらやるしかないじゃない。自分が決めたんだもん」
そんなT山さんの体調が優れないと今日連絡があった。
いつかまた会いたいと思っていたけど、
もしかしたらもう会えないのかもしれないと思うといてもたってもいられなくなった。ので不謹慎かもしれないけど、こうして文字にT山さんとの思い出を記す事にした。
T山さんは1960年代にシベリア鉄道でパリへ留学に来た、すごい人だった。
パリでは猛勉強してフランスの国立研究所で職を得た。その後は科学者として30年、ずっと第一線で活躍した。職場の同僚は時にノーベル賞受賞者だった。
成果のでない研究と格闘しながら、
異国の地で娘さんを育て上げ、
娘さんはプロのミュージシャンになり、
素敵な人と結婚し、孫が生まれた。
僕が知っているT山さんはパリで滞在していた
1週間ちょっとの姿しかしらないけど、分かる気がする。
T山さんはどんな大変なことがあっても
絶対にくじけない人だった。
弱音を吐かないで、人と比べないで、ただひたすら、自分とまっすぐ向き合ってきた人だった。
今週共通の友人とビデオレターを撮影して送る事になった。
無事にパリまで届くといいな。
5年前の出会いや話した事が、
こんなにも人の心に残っている事を知ってもらいたいな。
できたら喜んでもらって、体調が少しでもよくなったらいいな。
T山さん。大好きです。
どうかお元気で。
Dan